ざっくり学べる概ね10年程度のインプラント治療の変遷 第2回「荷重のタイミング」編 / 蓮池 聡

歯科臨床における概ね10年程度の変化・変遷を「ざっくり」解説するリレー連載。私・蓮池 聡が「インプラント治療」をテーマに解説します。

 

第2回目となる今回は、「荷重のタイミング」について取り上げてみましょう。

 

上顎は6か月?、下顎は3か月?

インプラント埋入後、二次手術までどれくらいの期間を空けますか? 「上顎は6か月、下顎は3か月の免荷期間を設ける」と教わったことはありませんか?

 

歯科インプラントの父 Brånemark先生は、1983年の総説にて「骨組織の治癒には、埋入されたフィクスチャーを3〜6か月の間、非荷重にて置いておくことが重要である」と述べています1)。このような Brånemark先生のプロトコールから『3〜6か月』を通常荷重の基準とし、これをベースに即時荷重・早期荷重・遅延荷重などの用語が用いられるようになりました。

 

2006年のEAO(欧州インプラント学会)コンセンサス会議にて提示されたレビューでは、以下の定義が採択されました2)

 

 

10年程前まで、我が国でもこれと同様な荷重プロトコールが用いられてきました。この考え方は今も変わらないのでしょうか?

 

現在の荷重分類

近年の ITI3)や EAO4)のコンセンサスを読むと、下記のような荷重分類が用いられています。

 

 

この分類は2007年のコクランシステマティックレビュー5)ではじめて用いられたもので、現在では世界中で用いられています。この分類では上下顎を区別することなく『オッセオインテグレーションに必要な期間は2か月以内』と考えられています。このような治癒期間の短縮化にはインプラント表面性状・形状の改良が背景にあります。

 

埋入と荷重のタイムコース

これら荷重タイミングに加え、インプラント埋入のタイミングもまた以下の3つに分けられます。

 

 

埋入と荷重のタイミングを考えると9種類のタイムコースが考えられます。それぞれのタイムコースに関し、成功率や生存率が論文にて報告されています。しかしながら、9つすべてで十分な報告が認められるわけではなく、いまだに通常荷重に関する報告が多いのが実情です(表1)。

 

表1 9種類のタイムコースの報告数3)

 

即時荷重は有用か?

即時荷重は埋入後すぐにインプラントを機能させるわけですから、患者にとって非常に有意義な治療法です。

 

単独歯欠損にインプラントを用いた場合の即時荷重と早期・通常荷重の影響を比較したシステマティックレビュー(SR)が2022年に報告されています6)。このSRには10本のランダム化比較試験(RCT)が組み入れられました。メタアナリシスの結果、インプラント喪失のリスク比はインプラントレベルで 1.19(95% CI 0.40 to 3.51)で、即時埋入のほうがインプラント喪失リスクが高い傾向を示したものの、統計学的有意差は認めませんでした。また、辺縁骨レベルの変化でも統計学的有意差は認めませんでした。

 

エビデンスから考えると、即時埋入はきわめて有用で効果的な治療と考えられます。しかしながら、SRに組み入れたRCTは厳格な組み入れ基準に基づくものであることを忘れてはいけません。健全な隣接歯に囲まれた一歯欠損、全身的に健康、非喫煙者、十分な垂直的および水平的骨量、十分な付着歯肉幅などの条件です。歯周炎罹患患者や口腔清掃不良な患者は除外されています。これら厳格な組入基準の存在は、『即時荷重がテクニックセンシティブな手技』であることを意味しているのではないでしょうか。

 

即時荷重は、外科的・補綴的・歯周病学的な配慮がなされて、はじめて治療が成功する難易度の高い術式といえ、十分な経験を有する臨床家のみが行うべき治療法です。

 

免荷期間をどう考えるか?

2回法インプラントにおいては、『免荷期間2か月』を基本として考えるべきでしょう。初期固定が不良なケース、全身状態や骨質に不安がある場合などでは、さらに長い期間の免荷期間を設定します。

 

また、埋入時に骨増生やサイナスリフトなどの副次的な外科処置を行ったケースでも長い免荷期間は必要となります。

 

 

参考文献

1. Brånemark PI. Osseointegration and its experimental background. J Prosthet Dent 1983;50(3):399-410.

2. Nkenke E, Fenner M. Indications for immediate loading of implants and implant success. Clin Oral Implants Res 2006;17 Suppl 2:19-34.

3. Gallucci GO, Hamilton A, Zhou W, Buser D, Chen S. Implant placement and loading protocols in partially edentulous patients: A systematic review. Clin Oral Implants Res 2018;29 Suppl 16:106-134.2ka

4. Donos N, Asche NV, Akbar AN, Francisco H, Gonzales O, Gotfredsen K, Haas R, Happe A, Leow N, Navarro JM, Ornekol T, Payer M, Renouard F, Schliephake H. Impact of timing of dental implant placement and loading: Summary and consensus statements of group 1-The 6th EAO Consensus Conference 2021. Clin Oral Implants Res 2021;32 Suppl 21:85-92.

5. Esposito M, Grusovin MG, Willings M, Coulthard P, Worthington HV. Interventions for replacing missing teeth: different times for loading dental implants. Cochrane Database Syst Rev 2007;18;(2):CD003878.

6. Zhao G, Zhou Y, Shi S, Liu X, Zhang S, Song Y. Long-term clinical outcomes of immediate loading versus non-immediate loading in single-implant restorations: a systematic review and meta-analysis. Int J Oral Maxillofac Surg 2022:S0901-5027(22)00136-9.

 

執筆者

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蓮池 聡

歯科医師・歯学博士

日本大学歯学部 専任講師

石川県金沢市生まれ。歯学部在学中に pES club(学生向けEBM勉強会)にてEBMを学ぶ。日本大学歯学部専任講師として歯周病学の臨床・教育・研究に携わる。
著書『学びなおしEBM GRADEアプローチ時代の臨床論文の読みかた』は多くの学会の診療ガイドライン作成時の参考図書に選定されている。
現在2児のパパ。趣味はプロレス観戦と英会話学習。

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