「根面う蝕の診療ガイドライン」を公開 日本歯科保存学会 / WHITE CROSS編集部

日本歯科保存学会は10月、「根面う蝕の診療ガイドラインー非切削でのマネジメントー」を公開した。

 

現在、高齢者の根面う蝕が増加しており、通院できない要介護者の多発性根面う蝕が、在宅医療や施設の介護現場で問題となっている。高齢化が進む日本の歯科医療において、根面う蝕に対する治療と予防は喫緊の課題であることから、本ガイドラインが作成された。

 

本稿では、「根面う蝕の診療ガイドラインー非切削でのマネジメントー」のポイントについて、紹介していきたい。

 

根面う蝕とは

加齢や歯周病に伴い露出した根面は、強固なエナメル質で覆われた歯冠部と異なり、脆弱なセメント質で覆われている。そのため耐酸性はエナメル質と比べて明らかに低く、う蝕に罹患しやすい。根面う蝕に気づいた時にはすでに大きなう窩を形成していたり、深部まで脱灰していても大きな欠損がみられなかったりとさまざまなケースがある。

 

根面う蝕は、病変の辺縁や深度が不明瞭で、削除する範囲や深さの判別が困難であることから、修復は容易ではない。根面う蝕は歯肉縁下や歯を取り囲むように進行するため、不用意に切削すると歯質を過剰に切削することになる。これらのことから、高齢者の根面う蝕に対しては、非切削でのマネジメントを行うことでう蝕を非活動性にし、その進行を停止させることが重要視されている。

 

 

フッ化物を応用した、う蝕マネジメントの変遷

欠損の浅い活動性根面う蝕に対し、再石灰化を図って非活動性にする治療法として、欧米をはじめ日本でも経験的にフッ化物応用が行われている。

 

2016年度の診療報酬改定では、エナメル質初期う蝕へのフッ化物塗布処置ならびにう蝕薬物塗布処置が保険導入され、2020年度には長期管理加算も導入された。さらに2022年度の診療報酬改定では、根面う蝕に対するフッ化物歯面塗布処置の対象が、在宅等療養患者から 65歳以上の患者に引き上げられた。

 

このように、フッ化物やう蝕薬物塗布により非切削でマネジメントを行う重要性は年々増大しているものの、非侵襲的な根面う蝕の治療法について有効な治療法が明らかでなく、エビデンスに基づいた診療ガイドラインの登場が待たれていた。

 

根面う蝕に対する4つの推奨事項とは

今回公開された「根面う蝕の診療ガイドラインー非切削でのマネジメントー」にある、4つのCQ(クリニカルクエスチョン)とそれに対する推奨事項は以下の通り。なお「推奨する」は強い推奨を、「提案する」は弱い推奨を意味するとしている。

 

 

CQ1:永久歯の活動性根面う蝕の回復に、フッ化物配合歯磨剤とフッ化物配合洗口剤を併用すべきか

フッ化物配合歯磨剤(1,100~1,400ppmF)にフッ化物配合洗口剤(250~900ppmF)を毎日併用させることにより、活動性根面う蝕が硬くなり、非活動性になる。よって、永久歯の活動性根面う蝕の回復に、本法を推奨する

(エビデンスの確実性:中)

 

【注記】フッ化物配合洗口剤:日本では、一般用医薬品としてフッ化物濃度225ppmFのフッ化ナトリウム洗口液が市販されている。また、医療用医薬品として歯科医院などで販売されるう蝕予防フッ化物洗口剤については、フッ化物濃度 250、450、900ppmFである。どの濃度での洗口を指示するかは、歯科医師の診断による。 

 

日本で販売されているフッ化物洗口剤(ガイドラインより引用)

 

 

CQ2a:う蝕ハイリスク患者の活動性根面う蝕の回復に、5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤を使用すべきか -セルフケアできる患者の場合-

セルフケアできる患者において、5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤を使用させることにより、通常のフッ化物配合歯磨剤(1,100~1,450ppmF)に比べ、活動性根面う蝕が硬くなり、非活動性になる。よって、活動性根面う蝕の回復に、5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤の使用を提案する

(エビデンスの確実性:中)

 

 

CQ2b:う蝕ハイリスク患者の活動性根面う蝕の回復に、5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤を使用すべきか -セルフケアできない患者の場合-

セルフケアできない患者において、5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤を使用することにより、通常のフッ化物配合歯磨剤(1,450ppmF)に比べ、活動性根面う蝕が硬くなり、非活動性になる。よって、活動性根面う蝕の回復に、5,000ppmF配合歯磨剤の使用を提案する。(エビデンスの確実性:低) 

 

【注記】CQ2a、2bで評価された5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤は、現在日本の薬機法(医薬品医療機器等法)では認可されていないため、歯科医師の責任において推奨し、歯科医師の管理・指導のもと製造者が記載する注意事項に従い使用させる。 

 

 

CQ3:活動性根面う蝕の進行抑制に、38%フッ化ジアンミン銀を使用すべきか

38%フッ化ジアンミン銀(SDF)を年1回塗布することにより、対照(水または炭酸水)に比べ、活動性根面う蝕が硬くなり、非活動性になる。よって、活動性根面う蝕の進行抑制に、SDFの年1回塗布を推奨する。(エビデンスの確実性:中)

 

【注記】 ここで評価された38%フッ化ジアンミン銀は、医療用医薬品「サホライド液歯科用 38%(ビーブランド・メディコーデンタル)」である。使用に際しては、薬剤の塗布によりう蝕病変部が黒色に変化することを、患者、家族、介護者に説明し、承諾を得る必要がある。

 

日本で販売されているフッ化物製剤(ガイドラインより引用)

 

患者に5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤を使用させるには

アメリカ、カナダ、ドイツなど主要先進国を含む15ヶ国では5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤が認可されているものの、日本ではまだ認可されていない。しかし、薬機法の「医師が自己の患者の治療のために輸入する」の手続きを経ることで、正規に購入することができる。

 

患者に5,000ppmF配合歯磨剤を使用させる場合は、歯磨きを原則1日2回とし、歯磨剤の量は1cm程度、使用期間は6〜8ヶ月を目安とするなど、本ガイドラインにある注意事項に沿って行うことが望ましい。

 

 

***

 

 

ガイドラインの中で、もしも日本で5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤が認可されていたなら、CQ2aに対する推奨事項は「〜提案する」ではなく「〜推奨する(強い推奨)」になったであろうと言及されていた。

 

このことから、日本で一日も早く5,000ppmFフッ化物配合歯磨剤が認可されることを強く望む、日本歯科保存学会の姿勢が感じられた。

 

今回発表されたガイドラインをきっかけに、一人でも多くの歯科医師がフッ化物製剤を活用し、非侵襲的な根面う蝕の治療を実践できるようになることを願う。

 

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出典

根面う蝕の診療ガイドラインー非切削でのマネジメントー(日本歯科保存学会)

執筆者

WHITE CROSS編集部

WHITE CROSS編集部

臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。

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