日本歯周病学会が『糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第3版』を発刊 / WHITE CROSS編集部

この記事のポイント
・日本歯周病学会が8年ぶりの改訂となる「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第3版」を発刊した。

・今回のガイドラインは、高齢者の糖尿病や全身疾患との関連について、焦点を当てた内容となっている。

・今回の改訂では、特に医科のガイドラインが多く参考にされており、医科歯科連携が重要視されていることが伺える。

 

はじめに

日本歯周病学会は6月27日、『糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第3版』を発刊した。

 

このガイドラインは、2009年に発刊された初版『糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン』の改訂第3版として、糖尿病に罹患した患者の歯周治療を安心・安全に行い、患者のQOLの向上に寄与し、歯周組織を含む口腔はもとより全身の健康増進を支援することを目的に作成されたものである。

 

今回のガイドラインでは、「妊娠糖尿病と歯周病の関連」や「糖尿病患者に対する歯周治療で抗菌療法の併用は有効か」など、最新のエビデンスに基づいた研究成果を盛り込み、内科医向けで日本糖尿病学会による『糖尿病診療ガイドライン2019』のQ13_糖尿病と歯周病との整合性も考慮している。

 

今回は、この新しいガイドラインについて解説していきたい。

 

 糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第3版(日本歯周病学会ホームページより引用)

 

ガイドラインの概要

今回のガイドラインは、7つのクエスチョン(Q)と8つのクリニカルクエスチョン(CQ)で構成されている。

 

前回の改訂を見直し、モチベーション維持のための患者説明を念頭に置いてQの数が増やされた。

 

 

 

前回のガイドラインと変わった内容は、Q5とQ6の項目で、高齢の糖尿病患者に関する2つのQが追加された。

 

また、CQにおいては、Mindsの診療ガイドライン作成マニュアル2020ver.3.0に準じたGRADEシステムに則り、パネル会議において推奨の強さを決定している。

 

 

 

CQ2「糖尿病患者に対する歯周治療で抗菌療法の併用は有効か」に関しては、今回のガイドラインから初めて記載された。

 

今回の改訂ポイントを解説!

妊娠糖尿病と歯周病の関連について

糖尿病は、発症機序により、① 1型糖尿病 ② 2型糖尿病 ③ その他の特定の機序・疾患によるもの ④ 妊娠糖尿病に分類され、日本における妊娠糖尿病の頻度は2010年診断基準の変更により増加傾向であると記載されている。

 

欧州歯周病連盟(EFP)と米国歯周病学会(AAP)の最新レビューにより、歯周炎に罹患した者は、罹患していない者と比較して2型糖尿病を発症する可能性が高く、1型・2型糖尿病患者は非糖尿病者と比較して有意に歯周病の発症率が高いといえることが記載されている。

 

一方で、妊娠糖尿病患者に関しては歯周病との関連についてさらなる研究が必要であるとの記載に留まった。

 

妊娠糖尿病と歯周病の関連について検討されたのは、今回の改訂が初めてである。

 

 

 

高齢の糖尿病患者に関する歯周治療について

今回、高齢の糖尿病患者に関する項目として、「歯周治療の高齢の糖尿病患者では歯周病が増悪しやすいか」「高齢の糖尿病患者に対して歯周治療は奏効するか」の2つのQが新たに追加された。

 

高齢の糖尿病患者で歯周治療を必要とする者は年々増加しており、両疾患が高齢社会における日本人のQOL維持、あるいは医療費に与える影響は大きいことが示されている。

 

 

糖尿病患者に対する歯周治療での抗菌療法について

2015年の第2版では、糖尿病患者に対する歯周治療での抗菌療法について明確に意見の一致ができず、重要課題の一つであると記載されていたが、改訂第3版では、新たなエビデンスの収集と、これまで蓄積されているランダム化無作為試験に対するメタ解析が行われ、統計学的な再評価が行われた。

 

その結果、「抗菌療法の併用は一定の有効性が認められるものの、糖尿病患者の歯周治療に抗菌療法を併用することは弱く推奨する」との記載に留まった。

 

 

 

糖尿病患者の歯周基本治療における抗血栓薬の休薬について

『2020年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法』において、歯周基本治療を含む歯科治療は、出血リスクが極めて低いまたは止血が容易な手術に分類されており、基本的に抗血小板薬および抗凝固薬の中断は行わないことが推奨されている。

 

そのため、本ガイドラインでは、「抗血栓薬を服用する糖尿病患者の歯周基本治療においては、服用の継続を推奨するが、患者ごとの個別対応が重要である」と示されている。

 

加えて、日本循環器学会に専門家としての意見を依頼し、改訂第2版ではワーファリンについてのみの言及であった休薬に関して、改訂第3版では、直接作用型経口抗凝固(DOAC)等の他の薬剤についても言及している。

 

 

***

 

 

今回の改訂では、特に医科のガイドラインが多く参考にされており、医科歯科連携が重要視されていることが伺える。

 

糖尿病を有する歯周病患者に対して歯周治療はHbA1cの改善に有効であり、歯周基本治療の実施を強く推奨することが記載された。この事実は、すべての歯科医療従事者が知っておくべきことであり、医科歯科連携を歯科の立場からもっと推進させていく必要があるだろう。

 

歯科医療従事者は、本ガイドラインを一読し、国民の口腔保健の向上および全身の健康維持に寄与するため、診療時の常備書籍として日々の臨床に活用していただきたい。

 

 

参考

特定非営利活動法人日本歯周病学会編集(2023)『糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第3版』医歯薬出版

特定非営利活動法人日本歯周病学会編集(2015)『糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版』医歯薬出版

一般社団法人糖尿病学会編集(2019)『糖尿病診療ガイドライン2019』南江堂出版

一般社団法人日本循環器学会編集(2020)『2020年 JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法』

執筆者

WHITE CROSS編集部

WHITE CROSS編集部

臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。

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