【若手勤務医が考える】勤務医でも実践しやすい歯科治療の基本手技 #2 KP・PZ編 / 遠藤 眞次

この記事のポイント

・拡大視野、ミラーテクニック、圧排糸を用いて「見える」環境を作ることが大切。

・セラミックインレーなどでは丸みのある窩洞外形とし、鋭角部の処理を適切に行う。

・支台歯形成で大切なのは支台歯高径とテーパー。

 

はじめに

昨今、歯科治療に関する数多くのセミナーや記事がありますが、若手勤務医には実現がむずかしいものも少なくありません。本記事では、著者が若手勤務医だからこそわかる、以下の点に重きを置いて解説します。

 

・できる限り一般的な器材を使用する

・テクニカルすぎない

・チェアタイムに配慮する

 

今回は第2回として「KP(窩洞形成)PZ(支台歯形成)」について解説します。おすすめの書籍も紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください!

 

3つの「見える」で形成を攻略

KPもPZも、形成面がよく見えなければ上手に削ることはできません。3つの「見える」をマスターして、形成を攻略しましょう!

 

 

① 拡大すると「見える」

以前より、歯周外科治療や歯内療法では拡大視野の有用性が認識されています1)2)が、形成においても同じことがいえると感じています。自分の形成面を拡大視野下で見てみると、今までは気づかなかった改善点が見つかるかもしれません。

 

筆者が初めて購入した拡大鏡は安価な3倍のガリレアンルーペでしたが、それでも拡大視野のありがたみを実感したことを覚えています。

 

拡大鏡はどんな処置にも使える

 

 

② ミラーテクニックで「見える」

形成時には、直視だけではどうしても見えない部分がでてきます。ミラーテクニックを駆使することで、スキルは間違いなく上達します。

 

ミラーテクニックでは見えやすいミラートップが必要ですが、高価なものも少なくありません。比較的安価なミラートップとして、Ciの「HRフロントミラートップ」という商品が秀逸です。クリニックのミラーハンドルと簡単に付け替えられるので、勤務医の先生方でも使いやすいと思います。

 

ミラーテクニックのコツは、形成歯とミラーをできる限り離すことです。距離を取ることで、ミラーへの被水を避けられます。逆に、最後臼歯部遠心の形成では距離を取ることができないため、被水するものとして割り切ることが肝心です。

 

被水を減らすとストレスが減る

 

ミラーテクニックを学びたい方には、Club GPの佐藤琢也先生による解説がおすすめです。気になる方はthe Quintessence2021年8月号「拡大視野下のポジショニング」をチェックしてみてください!

 

 

③ 歯肉圧排でフィニッシュラインが「見える」

フィニッシュラインの確認は、修復物の適合性を担保する上で重要です。歯肉縁上形成では圧排の必要はありませんが、歯肉縁形成や歯肉縁下形成では歯肉圧排によりフィニッシュラインが明確になります。特に歯肉縁下形成では、形成時にも歯肉圧排を行いましょう。

 

圧排糸を形成深度の参考にする

 

筆者は、基本的に圧排糸を用いて歯肉圧排を行います。形成時には、シングルコードテクニックでダブルコードテクニック時のセカンダリーコード(太い方)を用いています。印象採得時は、ダブルコードテクニックです。最初は圧排糸の挿入に時間がかかってしまいますが、ラバーダムと同じで慣れれば簡単です。

 

KPのコツ

ここでは、「CAD/CAMインレー」「e.maxインレー」「ジルコニアインレー」のKPについて解説します。これらの窩洞はメタルインレーとは異なる特徴があるため、以下の3点を意識することが上達への近道です。

 

① 丸みのある窩洞外形と鋭角部の処理

② 窩縁斜面(ベベル)を付与しない

③ プレパレーションガイドで削除量を確認する

 

CAD/CAMによる技工では、鋭角部の再現が困難で、修復物不適合の原因になることがわかっています3)細かい部分の修正は無注水下低速回転で行うとスムーズですが、歯髄が熱による影響を受けないように、適宜注水しながら行いましょう。

 

筆者はSFの細いシャンファーバーを使用している

 

使用する材料や形態によって歯質削除量は異なるため、事前にメーカーのプレパレーションガイドを確認しておくと良いでしょう。「e.max プレパレーションガイド」などと検索すると、プレパレーションガイドを確認できます。

 

PZのコツ

クラウンが脱離しづらい支台歯形成のポイントは、支台歯高径とテーパーにあります。支台歯高径は前歯部で3mm以上、臼歯部で4mm以上が必要であるとされ、テーパーは5〜10°(形成軸面の成す角TOCが10〜20°)が良いとされています4)

 

クラウンの維持のために咬合面に保持溝を付与したものが散見されますが、維持力の向上には寄与しません5)。無意味なだけでなく、過剰切削や修復物の浮き上がりにもつながるため、保持溝の付与は控えましょう。

 

前歯も臼歯もTOCを意識した形成が必要

 

支台歯形成については、西川義昌先生らの『The Basic Planes for Tooth Preparation』という書籍がおすすめです。専門書としては比較的安価で、使用している形成バーの名称や直径、長径などもまとめてあります。勤務医には高価なバーセットを揃えることはむずかしいかもしれませんが、書籍を参考に似た形態の安価なバーを探してみると良いかもしれません。

 

 

***

 

 

前回のCR充填と共に、KP・PZは日常臨床で頻出です。紹介した書籍も非常にわかりやすいので、ぜひ読んでみてください!

 

次回は「RCT編」をお送りします。お楽しみに!

 

 

参考文献

1)Sandro Bittencourt, Erica Del Peloso Ribeiro, Enilson A Sallum, Francisco H Nociti Jr, Márcio Zaffalon Casati. Surgical microscope may enhance root coverage with subepithelial connective tissue graft: a randomized-controlled clinical trial. J Periodontol. 2012 Jun;83(6):721-30.

2)Gary B Carr, Carlos A F Murgel. The use of the operating microscope in endodontics. Dent Clin North Am. 2010 Apr;54(2):191-214.

3)浅水啓輔, 小川徹, 佐々木啓一. CAD/CAM冠用ハイブリットレジンの切削加工による臼歯部CAD/CAMインレーの適合性に関する基礎的検討. 日本デジタル歯科学会誌. 2022;12(2):88-97.

4)C J Goodacre, W V Campagni, S A Aquilino. Tooth preparations for complete crowns: an art form based on scientific principles. J Prosthet Dent. 2001 Apr;85(4):363-76.

5)Periklis Proussaefs, Wayne Campagni, Guillermo Bernal, Charles Goodacre, Jay Kim. The effectiveness of auxiliary features on a tooth preparation with inadequate resistance form. J Prosthet Dent. 2004 Jan;91(1):33-41.

執筆者

遠藤 眞次の画像です

遠藤 眞次

歯科医師

医療法人社団MEDIQOLデンタルクリニック神楽坂 院長

臨床のかたわら、歯周治療やインプラント治療についての臨床教育を行う「Dentcation」の代表を務める。他にも、歯科治療のデジタル化に力を入れており、デジタルデンチャーを中心に、歯科審美学会やデジタル歯科学会等で精力的に発表を行っている。

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