【保険算定の悩みを解決!】歯科保険算定のいろは Case.1 抜歯時の術前抗菌薬投与を算定する場合 / 遠藤 眞次

・歯科処置による菌血症の発症率はどれくらい?

・術前の予防的抗菌薬を処方する際の保険算定のポイントとは?

 

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はじめに

日々の保険算定のお悩みを解決する「歯科保険算定のいろは」。今回は抜歯前の予防的抗菌薬の処方について、保険算定のポイントをお伝えします!

 

2022年の歯科疾患実態調査では、8020達成者は51.6%にも上る1)という結果がでました。

 

8020達成者の推計値推移

8020達成者の推計値推移

 

高齢になっても多くの天然歯が残存していることがわかる一方で、天然歯が残っているが故に、高齢になってから抜歯が必要になるシーンが増えていることが推察されます。

 

高齢者の抜歯時に、特に注意しなければならないのは全身疾患の把握です。今回はその中でも感染性心内膜炎(IE:Infectious Endocarditis)と抗菌薬の関係に注目していきます。

 

1)令和4年歯科疾患実態調査の概要-厚生労働省

 

感染性心内膜炎と歯科治療の関係

感染性心内膜炎(以下、IE)とは、血流に乗って心臓まで辿り着いた細菌が、心臓弁を含む心内膜に付着することで発症する「敗血症性疾患」であるとされています。発症率は高くありませんが、一度発症すると院内死亡率は20%以上2)に及ぶとのこと。

 

局所における血管への細菌侵入が菌血症を引き起こし、菌血症が全身に波及することで敗血症が発症します。「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」によると、歯科処置による菌血症の発症率3)は、以下の通りです。

・抜歯:18〜100%

・歯周外科:36〜88%

・スケーリング:8〜79%

・ブラッシング:23%

・感染根管処置: 42%

 歯科処置による菌血症発症率

歯科処置による菌血症発症率

 

抜歯のみならず、日常的に行われている多くの歯科処置で菌血症が発症していることがわかります。本邦の研究では、IEの原因が歯科治療と考えられるケースは9〜18%2・4)といわれています。

 

それでは、どのような疾患を有する場合に、抜歯後の菌血症に注意しなければいけないのでしょうか。

 

2)Koichiro E, Toshiaki O, Kyomi T, Naoko I, Hiroshi K.Trend and contributing factors of in-hospital deaths in patients with infective endocarditis over the last twenty years. J Cardiol 2006 Feb; 478(2):73– 81.

3)日本循環器学会. 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版).

4)Satoshi N et al. Current characteristics of infective endocarditis in Japan: an analysis of 848 cases in 2000 and 2001. Circ J. 2003 Nov;67(11):901-5.

 

術前の抗菌薬投与が推奨される心疾患

「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」では、IEのリスクがある基礎心疾患が高・中・低リスクの三群に分けられています。

 

 

① 高度リスク群

・ 人工弁術後

・ IEの既往

・ 姑息的吻合術や人工血管使用例を含む未修復チアノーゼ型先天性心疾患

・ 手術、カテーテルを問わず人工材料を用いて修復した先天性心疾患で修復後6ヶ月以内

・ パッチ・人工材料を用いて修復したが、修復部分に遺残病変を伴う場合

・ 大動脈縮窄

 

抜歯を含む菌血症を誘発する可能性がある処置をする際には、「予防的抗菌薬投与を強く推奨する」とされています。

 

術前の抗菌薬投与が推奨される心疾患

 

 

② 中等度リスク群

・高度、低度リスク群を除く先天性心疾患

・閉塞性肥大型心筋症

・弁逆流を伴う僧帽弁逸脱

 

中等度リスク群では「予防的抗菌薬投与を弱く推奨する」とされています。

 

 

③ 低度リスク群

・ 心房中隔欠損症(二次孔型)

・ 心室中隔欠損症・動脈管開存症・心房中隔欠損症根治術後 6 ヵ月以上経過した残存短絡がないもの

・ 冠動脈バイパス術後

・ 逆流のない僧帽弁逸脱

・ 生理的または機能的心雑音

・ 弁機能不全を伴わない川崎病の既往

・ 弁機能不全を伴わないリウマチ熱の既往

 

低度リスク群では「あえて予防する必要はない」とされています。

 

保険算定のポイント 

保険算定のポイント

 

 

保険診療では、一般的に予防的処置に対する診療報酬が請求できません。抗菌薬の処方はすでに細菌感染を認める場合や、侵襲度の高い観血的処置を行った後の術後感染予防に処方される場合がほとんどだと思います。

 

しかし、IEのリスク群に対して抜歯術などを施行する際には、術前の予防的抗菌薬の処方が可能な場合があります。その際のポイントは、摘要欄になぜそのような処方を行ったかを明記することです。

 

例えば「右上6抜歯術施行にあたり、感染性心内膜炎予防のため、アモキシシリン水和物2gを術前投与」などと摘要欄に記載すると良いでしょう。もちろん、術前の予防的抗菌薬投与が必要なケースに限ることはいうまでもありません。

 

社会保険診療報酬支払基金に術前抗菌薬投与の是非について確認したところ、処方の理由がわかれば問題ないとの回答を得ました。

 

筆者は今までに術前投与で返戻となったことはありませんが、不安な先生方は、社会保険診療報酬支払基金などに保険算定が可能か確認してみると良いでしょう。

 

 

***

 

 

今回の「歯科保険算定のいろは」では、感染性心内膜炎リスク患者の術前抗菌薬投与を取り上げました。ガイドラインもぜひご一読ください。

 

次回もお楽しみに!

 

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執筆者

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遠藤 眞次

歯科医師

医療法人社団MEDIQOLデンタルクリニック神楽坂 院長

臨床のかたわら、歯周治療やインプラント治療についての臨床教育を行う「Dentcation」の代表を務める。他にも、歯科治療のデジタル化に力を入れており、デジタルデンチャーを中心に、歯科審美学会やデジタル歯科学会等で精力的に発表を行っている。

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