ざっくり学べる概ね10年程度の歯内治療の変遷 第1回「根管治療の乾燥・洗浄・貼薬」編 / 高林 正行

はじめに

筆者は2010年に昭和大学歯学部を卒業し、卒業後はそのまま母校の大学病院の歯内治療科に所属していました。歯学部卒業後約10年、大学病院にて勤務しておりましたが、現在は退職し、客員講師として学生・医局員教育に関わっています。

 

卒後10年を振り返ってみますと、「学生時代に筆者自身が教えてもらったこと」と、「現在の教育現場で筆者が教えていること」は大きく違ってきています。そこで、歯内治療に専門的に関わる立場として、また卒前・卒直後教育に関わる大学人として、歯内治療における概ねここ10年程度の変遷について、2回に分けて振り返ってみたいと思います。

 

新しい方法がどんどん出てきている歯内治療の現場で、変えていきたい臨床のポイントをスマホでもサッと読めるよう簡単にまとめましたので、アップデートの参考にしてくだされば幸いです。

 

そもそも「アップデート」って、何をアップデートするの?

歯科領域に限らず「情報をアップデートしましょう!」とよくいわれていますが、そもそも何をアップデートすればよいのでしょうか? 

 

たとえば臨床の場で必要になる知識や技術を、専門医ベースで「最低限のアップデート情報」としてしまうと、必要になる学習量は非常に多くなってしまいます。しかし、現在の卒前・卒直後教育で教えられていることを、臨床の場に出るにあたっての「最低限の必要知識・技術」すなわち「標準治療」とするならば、十数年前の自分と比べてアップデートしやすいのではないでしょうか。

 

図1 現在の卒前・卒直後教育で教えられていることを基準に自身の臨床を評価すると、アップデートすべきことが見えてきます。

 

TOPIC 1 ブローチ綿栓から滅菌ペーパーポイントへ

学生実習の時に、ブローチ綿栓作りの速さや、長さや太さの調節の上手さで友人と競ったりしなかったでしょうか?現在は、ブローチ綿栓の使用は見直されています。

 

そもそもブローチ綿栓は、根管内の水分を吸収するのに非効率であり、巻きつけた綿栓を乾熱滅菌器で消毒・滅菌した場合も、その効果は臨床使用の際に期待できるレベルのものではないとされています。現在では、滅菌されたペーパーポイントの使用が推奨されています。

 

なお、ペーパーポイントを使用する前に、細い吸引チップで髄腔・根管内を吸引することで、効率的に乾燥操作を行うことができます。

 

図2 根管内の乾燥は「ブローチ綿栓」から「滅菌ペーパーポイント」にアップデート!

 

TOPIC 2 根管洗浄では過酸化水素水を使用しなくなりつつある

筆者が学生の時は、根管洗浄には「次亜塩素酸ナトリウム溶液と過酸化水素水のシリンジを用いた交互洗浄」が行われていました。しかし現在は、根管洗浄に過酸化水素水は使われなくなってきています。

 

その理由は、大きく2つあります。

 

まず、次亜塩素酸ナトリウム溶液に期待する作用が、過酸化水素水を使用することで中和され、低下してしまうからです。

 

また、過酸化水素水を使用することで「化学反応によって発生する発泡が根管内の汚れを根管口の方向に持ち上げる」と考えられていましたが、逆に根管内に発生した気泡により洗浄液がしっかり根管壁をめぐらなくなってしまうことが言われています。

 

現在は、次亜塩素酸ナトリウム溶液をメインで使い、EDTA溶液を補助的に使用するようになっています。

 

図3 根管洗浄は「次亜塩素酸ナトリウム溶液+過酸化水素水」から「次亜塩素酸ナトリウム溶液+EDTA溶液」にアップデート!

 

TOPIC 3 根管貼薬剤は水酸化カルシウムの使用を第一選択にする

根管貼薬剤というと、歴史的にはフェノール系やホルムアルデヒド系の薬剤を綿栓に染み込ませて使用する方法が長く用いられてきましたが、現在ではこれらの薬剤は使うべきではないとの認識です。なぜなら、期待して得られるプラスの効力より、細胞毒性が高いことによる全身的な不利益のほうが多いからです。米国歯内療法専門医協会(American Association of Endodontist: AAE)は、これらの薬剤を含む貼薬剤やシーラーを使用しないようにポジションステートメントを発行しています。

 

ちなみに、このポジションステートメントに引用されている論文はすべて1980年代のものです。筆者が学生の時の臨床実習(2007~2008年頃)でも使用していた先生が多かった記憶がありますので、その時点で日本における歯内治療に関する知見のアップデートは遅れていたのかも知れません。

 

現在の根管貼薬剤の第一選択は、水酸化カルシウム(製剤)です。

 

図4 AAEポジションステートメントに記載されている貼薬剤・シーラーに関する禁止事項(日本歯内療法学会HPより引用)。

 

第1回目のおわりに

現在の卒前・卒直後教育で教えられていることを、臨床の場に出るにあたっての「最低限の必要知識・技術」=「標準治療」と定義して、歯内療法における「ざっくり10年程度」の変化として、代表的な3トピックスを解説してみました。

 

勉強熱心な先生の中では「何を当たり前のことを」と思われる先生もいらっしゃるかも知れませんが、本稿で紹介した3トピックスはまだまだ「歯内療法における標準治療」として浸透しきれていないのも事実です。

 

次回は、仮封、根管形成、根管充填の3トピックスについて解説していきます。

執筆者

高林 正行の画像です

高林 正行

歯科医師

高林デンタルオフィス東京 院長

「予防に勝る治療はなし。だが治療になったら最善を尽くそう」をモットーに、自身の行う治療がその歯にとって最後の保存治療になるよう、「歯の保存のエキスパート」を目指して歯内治療の研鑽を積んでいる。開業後も、大学病院において客員講師として、学生や研修医の基本的な診断知識や治療技術の向上、意識改革などの教育にも日々取り組んでいる。
2020年、インターアクション株式会社より『無理なくできる外科的根管治療導入マニュアル』を出版。

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記事へのコメント(3)

歯科医師
なんちゃって歯医者のよしゅたん先生 2022/11/21 15:15
歯科医師
たく先生 2022/09/23 21:09

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