「トルクテック5倍速コントラ ウルトラミニヘッド」開発者インタビュー / WHITE CROSS編集部

2022年に発売が開始された『トルクテック5倍速コントラ ウルトラミニヘッド』をご存じだろうか。
モリタ製作所のエンジニアが培った技術力と創意工夫を駆使し、シリーズ発売から12年もの歳月をかけて多くの困難を乗り越え生み出された、5倍速コントラアングルハンドピースだ。

今回、開発者の一人であるモリタ製作所 田中仁氏に、その開発秘話を伺うことができた。

 

お話を伺った方

 

世界市場で戦えるハンドピース『トルクテック5倍速コントラ』

『トルクテック5倍速コントラ』の開発に至った経緯を教えてください

歯科切削機器は、大きく「エアタービン」と「モーター用ハンドピース」の2つに分けられます。エアタービンは高速回転で切削効率が良く、モーター用ハンドピースは微妙な切削調整や研磨が可能な切削機器として知られていますね。中でも「5倍速コントラ」は、高速回転が可能で切削効率と精密作業を両立できるとして、先生方からのニーズを徐々に増やしていました。


しかし、エアタービンが滑らかで手になじみやすいボディ形状だったのに対し、5倍速コントラは角ばった無骨なデザインで、持ちやすさやアクセス性に配慮した形状ではありませんでした。というのも5倍速コントラは2対のギヤで構成され、ボディのアングル部分で約3.7倍、ヘッド内部で約1.3倍増速する仕組みでしたので、この従来の概念をもとに設計すると、どうしてもアングル部の下側が張り出した形状になり、臼歯部にアクセスしようとすると前歯に干渉してしまうという大きなデメリットをもっていたのです。

これらは “ギヤシステムの制約によってやむを得ないこと” というのが業界の常識でした。

 

2000年代の5倍速コントラ。当時は角ばった無骨な形状だった。

 

 

どのような改良を加えたのですか?

通常はギヤの構造に合わせてボディを形作っていくのがセオリーであったのに対して、先に理想的なボディ形状を決めてその中にどうすればギヤシステムを内蔵することができるかを考えるという、まさに“逆転の発想”から試行錯誤を繰り返しました。

 

その結果、生まれたのが「ダブルインターナルギヤシステム(従来2対のギヤを3対にし、2軸目を傾斜させ、さらに1段目と2段目のギヤを増速に有利なインターナルギヤで構成するシステム/特許第5645447号)」です。モリタではこれを設計したボディの中にうまくレイアウトしました。

 

これにより、ギヤの耐久性を犠牲にすることなく、持ちやすさに加え、臼歯部へのアクセス性が大きく向上し、先生と患者さんの負担軽減に向けてより大きく前進することができたのです。

 

「ダブルインターナルギヤシステム」のメカニズム。

  

 

インターナルギヤとは、どのような仕組みなのですか?

ギヤの構造は、ギヤ同士が外側で噛み合う「エクスターナルギヤ」が一般的です。それに対し、「インターナルギヤ」は歯がついている内側でギヤ同士が噛み合う構造です。


ヘッド内部のイメージ図(左)と、インターナルギヤ(右)ヘッド内部のイメージ図(左)と、インターナルギヤ(右)。

 

インターナルギヤは少ないスペースで大きく増速することができ、1つひとつの歯も大きくできるため、ギヤの強度や耐久性もさらに向上させることができますが、その反面加工が大変です。通常の歯車の場合はカッターで外周をカッティングするのですが、インターナルギヤは歯が内側に付くため通常の加工ができず、専用の工具を使って一つひとつ削っていくしかありません。

とくに軸が傾斜したインターナルギヤは、高精度に加工することが極めて難しいとされていて、これらの開発は、“あり得ない” ほど高度な技術への挑戦と言われていました。

 

あまりにも特殊だったため、当時、社内では「本当に高品質な5倍速コントラを製品化できるのか」といった懐疑的な声もありましたし、トルクテック本体の設計だけでなくギヤ測定器の開発も必要になるなど、想定外の先行投資も必要になりました。現状ではこれが最も理想的な形状と私たちは自負しています。

 

 

作るなら世界最小を目指して!『トルクテック5倍速コントラ ウルトラミニヘッド』

コンパクトヘッドタイプ『ウルトラミニヘッド』はどうやって誕生したのですか?

モリタでは、2010年のトルクテックシリーズ発売と機を同じくして、エアタービン『ツインパワータービン ウルトラシリーズ(パワフルマイクロヘッド)』を発売しました。
通常、タービンのヘッドを小さくすると羽根車も小さくなりパワー不足に陥りますが、当社では「ダブルインペラー」という独自の機構を採用していることで、強力なパワーとコンスタントなトルクをマイクロヘッドでも実現することができ、先生方から高い評価をいただいていました。その後、「5倍速コントラでもヘッドサイズを小さくできないか」という要望を多くいただいたという経緯です。

しかしその実現にはタービンヘッドの小型化にはない困難な壁がありました。というのも5倍速コントラの駆動源はモーターですから、同じ発想でギヤを小さくしてしまうとギヤやベアリングにかかる負荷が大きくなり耐久性に問題が生じます。そこで、ギヤシステムを変えずにベアリングを小型化し、さらに耐久性をプラスする必要がありました。

 

トルクテック5倍速コントラ「スタンダードヘッド」と「ウルトラミニヘッド」ヘッド部分のサイズ比較。 

 

 

ベアリングにどんな改良を加えたのでしょうか?

ベアリングは、内輪と外輪の中にボールを等間隔で保持するためのリテーナーと呼ばれる部品があります。ベアリングではリテーナーがもっとも重要で、同時にいちばん破損しやすい部分でもあります。一般的なベアリングのリテーナーには金属素材が用いられますが、タービンや5倍速コントラといった高速回転用のベアリングには非常に軽量で高速回転時の摩耗に強い樹脂素材が用いられます。樹脂素材といっても様々な素材がありますが、『ウルトラミニヘッド』ではオートクレーブ滅菌に対する耐熱性や耐蒸気性も備える特殊な樹脂素材を採用しました。

 

 

また、「深溝軸受」と「アンギュラ軸受」という2つの構造様式を比較評価し、『ウルトラミニヘッド』に最適な仕様を、約5年の歳月をかけて実験や耐久試験を繰り返し重ねて決定しました。とはいえ時代とともに技術も常に進化していきますから、開発は終わることなく続いています。

 

 

『ウルトラミニヘッド』では注水方法も改良が加えられていますね

弊社の5倍速コントラは3点注水を採用していますが、3点注水の場合はヘッド内に複雑な管路が必要となり、どうしてもヘッド高が高くなってしまいます。

そのため『ウルトラミニヘッド』では1点注水を採用しましたが、1点注水は注水位置がバーから外れやすく、それが原因で切削部が高温になり歯が焦げてしまう危険性もありました。そこで、バーの冷却機能を確保する「ワイド1点注水(特許出願中)」を新たに採用し、バーの根元から先端まで広い範囲の冷却が可能になる独自の1点注水を実現しました。

 

「ワイド1点注水」の噴霧状態。注水圧とチップエア圧に左右されない独自の1点注水を実現した。

 

 

 

このような技術はどうして生まれたのでしょう 

「我が道を行く」ではないですが、世界最小かつ高耐久を目指し続けるために、精密で複雑な加工や組み立てに挑戦しています。そのために現場の方々は常にスキルアップや研修を重ねていますし、最終の組み立てや製品検査は特に高いスキルをもつ数名の限られた人員で行うよう徹底しています。そうすることで、他には真似できないオンリーワンの個性になっていくのでないかとも感じています。これまで諸先輩方から引き継いだ知識や技術、そして想いがありますから簡単に妥協することはできません。


『ウルトラミニヘッド』は「作るなら世界最小を!」を合言葉に、開発・製造チームが文字どおり一丸となってさまざまな課題に一つひとつ解決していった結果生まれた製品です。こうした数々のこだわりによって実現した使い勝手の良さや耐久性の高さをぜひ臨床でご体感いただければと思います。

 

こだわり満載!トルクテックシリーズ

操作性・耐久性を考慮し設計されたトルクテックシリーズは、使用される術者のメリットを重視し快適な診療をサポートします。


 

LINEで送る

記事へのコメント(0)

人気記事ランキング

おすすめのセミナー