演者が臨床実習を行っていた40 年近く前の無歯顎患者は若くて、元気で、無歯顎≒高齢者というイメージではなかった。しかしこの30年間で歯科医療を取り巻く環境は大きく変化している。平成28年歯科疾患実態調査によると無歯顎者の52%は80歳以上であり、1999年の調査時の20% から大幅な増加をしている。全身的にも社会的にも多様な無歯顎患者に対して、義歯の製作方法や調整方法も多様化する必要性が我々に課されているとも言えよう。このような中、ホームケア・セルフケアの立ち位置で市場に流通している義歯安定剤も選択肢の一つではないだろうか。患者が義歯安定剤に求める効果は、痛みの軽減や義歯の維持・安定・安心感などと報告されている。一方、歯科医師には「負のイメージ」や「嫌悪感」がつき纏っているのはないだろうか。本邦で主に販売されている義歯安定剤はクッションタイプ、クリームタイプおよびパウダータイプの3種であるが、歯科医師がそれらと向き合っていくには、義歯安定剤に関する効果がどこまで明らかで、何が課題なのかを知る必要がある。本セミナーではそれらの点を整理し、臨床に還元できる点はあるのか?を皆さんと考えてみたい。
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