歯科医療産業の先へ CREATE IT.  〜ナカニシ工場取材〜 / WHITE CROSS編集部

歯科医師にとって最もなじみがある歯科医療機器で、患者さんからみても歯医者さんのイメージの代表格といえば、ハンドピースではなかろうか。


歯科医療の歴史を紐解くと、1832年には現在のユニットの原型となるリクライニング型のチェアー、そして1868年には世界で最初の電動ハンドピースが開発された。歯科医療の歴史と共に、ハンドピースの精度は高まり続け、現代の精密治療を可能とする ”名脇役” として、欠かせない医療機器となった。

 


2010年から2025年にかけて世界の歯科医療市場が急拡大する中で、歯科医療用ハンドピースの世界トップシェアを誇るMade in Japan企業が、栃木県鹿沼市に本社を置く株式会社ナカニシ(以下、ナカニシ)である。普段、歯科医療現場で何気なく使用しているハンドピースはどのように作り出されているのか、ナカニシ本社・工場を取材し、歯科医療を支える製造現場を取材した。

 

10月も終わりの小春日和、都心から電車で1時間半程度で、のどかな山野風景が広がる新鹿沼駅に到着する。駅からタクシーで5分程度に、ナカニシの本社および工場機能を担う SUNNY CAMPUSがある。

 

本社機能を担うRD1

 

SUNNY CAMPUSの中核となるのはRD1と呼ばれる本社機能を持つ新社屋であり、今年10月にはテレビ東京の番組 『知られざるガリバー 〜消費者の知らないエクセレントカンパニー〜』 でも紹介されている。

 

取材の案内をしてくれたマーケティング本部の宮崎歩さん

 

RD1のフロントには、歯科・医科・工業製品が展示されている。

 

 

左から工業製品、歯科製品、医科製品 NSKの売上げの8割は歯科製品が担う

 

RD1の中心には、巨大なイベントホールがあり、取材当日は中国からの団体客が訪れており、独立型の超音波スケーラーについてのセミナーを受けていた。

 

セミナーは通訳を介して中国語で行われていた

 

案内の宮崎さんに話を聞いてみると、中国においても歯科医療における超音波スケーラーの有用性が理解され始め、製品として浸透し始めているという。そのMade in Japanを求める中国人歯科医師とディーラーが日本観光を兼ねて団体で訪れ、セミナーとHands-on実習を受けているという。今まさに巨大市場へと変貌を遂げようとしている中国歯科市場への、日本企業としてのエントリー戦略を感じさせられる風景であった。

米国に継ぐ世界第2位の歯科医療市場を地場とする日本の歯科関連企業群にとって、中国は難しい市場の一つである。多くの企業が市場拡大に苦戦する中で、如何にして日本の歯科医療機器を輸出しシェアを拡大していくかが問われている。そのような中、こう言った取り組みが行われていることを自然に嬉しく思う。

 

 

イベントホールを取り囲むように螺旋階段があり、その階段途中の窓からは、製品設計をするエンジニアさんたちの姿が見られる。適度の切削圧に耐えながらブレ無くバーを回転させる、適切量の冷却水を放出させる、滅菌消毒に耐えられるなど、歯科医療現場で慣れ親しんだシンプルな用途とシビアな要求に耐えられる設計に、エンジニアリングの粋が注ぎ込まれている。

 

 

プロダクトデザインエンジニアの仕事風景

 

中国人歯科医師とディーラー向けのセミナーの後は、実機を使用したHands-on実習が3Fのセミナールームにて開催される。ここでは、ナカニシで働く歯科衛生士さんたちが活躍をする。日本においては歯科衛生士の90%以上がクリニック勤務である中、口腔衛生に関わる製品について徹底的に詳しくなり、デンタルショーやこういったセミナー・Hands-On実習において活躍する姿に、普段見慣れない歯科衛生士としてのキャリアの一つを知る。

 

セミナーの準備風景

 

 セミナールームの横には、ナカニシの歴史や製品の展示スペースがあり、デモ機も置かれている

 

 本社見学の後は、本日一番楽しみにしていたハンドピースの製造工場見学である。

 

工場見学案内をしてくれた芹沢浩さん

 

RD1の裏にあるF棟と呼ばれる1次製造工場

 

製造工程は、原材料である金属の棒からハンドピースの各種パーツを削り出す1次工程、より精密に調整がなされる2次工程、組み立て工程、そして検品やレーザーによる印字などが行われる。1次工程では1/100mmの精度、2次工程では1/1000mmまでの精度が求められるという。材料には、チタン、ステンレス、黄銅、アルミニウムなどがあり、例えば日本市場向けにはチタン製のハンドピースが、発展途上国向けにはステンレス製のハンドピースが多く製造されている。

こちらの工場だけで月に2000〜3000本ものハンドピースが製造され、世界135カ国に出荷されていく。

 

厳重に管理された1次工程の工場 24時間体制で生産が行われている

 

写真撮影禁止の中、特別に工場内写真をご提供いただいた

 

精密機器の製造現場にふさわしく、見学者にはヘッドカバーやシューズカバーの着用が求められる。特に組み立て工程はクリーンルームで行われ、一般人の立ち入りは禁止されている。

 

基本的な機械のセッティングを習得するまでに3〜5年の修練を要するという

 

使用される産業用オイルは97%を再利用し、環境に配慮している

 

製品のチェックを行うベテランの職人さん

 

 

徹底した管理体制の元に1/1000mmの精度が求められる工場を見学し、現場を支える職人芸に触れると、無機質なイメージを持つ工場にも歯科医療を支える職人としての誇りや血が流れていることを感じさせられる。

 

組み立て工程や検品では、女性の職人さんが数多く活躍している

 

多くの職人さんが関わったその先に、慣れ親しんだハンドピースが完成する

 

 

工場見学の後に、RD1屋上にあるサニーラウンジにて、中西英一社長にインタビューをさせていただいた。

 

インタビューに答えてくださった中西社長

 

ナカニシは、1930年に中西製作所として創業され、私で三代目となります。歯科関連企業としての歴史の中で、海外への展開を重視してきました。それが現在の世界シェアや世界各国との歯科医療との深いつながりに発展してきています。

 

 

 

 

 

     

 

今後も、日本の歯科医療と世界各国の歯科医療との架け橋になれるように・・・ひいては日本歯科医療の発展につながるような企業戦略を今後も描いていきます。

 

 

サニーラウンジに続くテラス 

 

宗教・文化の異なる世界各国からのゲストの訪問に対応できるように設計されている

 

 

取材を終える頃には、日も暮れかけていた

 

ナカニシへの取材を振り返って

一般的にはあまり知られていない、歯科医療を支える製造業への取材を通じて感じたのは、そこにも歯科医療臨床にもつながるハンドピース職人の思いや誇りがあることだった。

 

WHITE CROSSでは、先日、医師を招き、マイクロスコープを活用した歯科治療の動画を閲覧してもらった。その際に、歯科治療へのテクノロジーの入り方とその治療精度の細かさに、医師は驚きを隠せないでいた。歯科医療の歴史は、歯科医療そのものの知の蓄積、公衆衛生の進歩、そして歯科医療機器・材料の発達などが複雑に絡み合いながら紡ぎ出されてきた。

 

1979年にジャパン・アズ・ナンバーワン と言われ、製造業を中心に日本の経営手法が世界の注目を集めた時代があった。その評価は90年代には陰りを見せ、特に過去20年にわたって日本は世界経済の中で最も苦しんでいる先進国となっている。その苦しい時代の中で、精密医療機器製造業としてのノウハウを蓄積しながら長年の海外戦略を実行してきた先に、歯科医療用ハンドピースの世界トップシェアとなり世界の歯科医療を支えるナカニシの姿は、まさに "知られざるガリバー” と言えるのではなかろうか。

 

 

執筆者

WHITE CROSS編集部

WHITE CROSS編集部

臨床経験のある歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科関連企業出身者などの歯科医療従事者を中心に構成されており、 専門家の目線で多数の記事を執筆している。数多くの取材経験を通して得たネットワークをもとに、 歯科医療界の役に立つ情報を発信中。

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