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・松丸悠一先生と井上和先生による義歯の正しい管理法を学べるセミナーが開催! ・患者説明、義歯関連粘膜病変、義歯のケア、義歯安定剤についてを網羅的に解説! |
執筆者:遠藤眞次
はじめに
10月8日の「入れ歯の日」に合わせて、義歯の正しい管理方法を解説したセミナーが公開された。
講師はフリーランス歯科衛生士の井上和先生と、MATSUMARU DENTURE WORKSの松丸悠一先生の豪華な二名。
井上先生の演題は「義歯装着患者に私が話していること」、松丸先生は「外来・ホームにおける義歯ケアに関するTips」をテーマに、義歯の管理方法が語られた。
現在はセミナーの視聴期間が終了しており、視聴できないのが残念だが、正しい義歯管理方法を忘れないために、本稿にセミナーの要点を書き留めておく。
『義歯装着患者に私が話していること』井上和先生

セミナー前半は井上先生パート
義歯を装着している患者に言われることが多い内容は、「ごはんを食べると痛い」や「食べ物が挟まる」、「入れ歯が外れる」といった不満だと井上先生はいう。
井上先生は、義歯は義足と同じだと患者に説明しているとのこと。いくら義足を装着したからといって、自分の足と全く同じようには歩けない。
う蝕治療では、治療によってう蝕がなかったときと遜色ない機能を取り戻せることがほとんどだが、義歯治療ではそうならないことも多い。しかし、義歯治療でも、う蝕治療と同じように元通りになると思っている患者さんが多いように感じるという。

保存修復治療も欠損補綴治療も、組織を再生させるわけではない
筆者の臨床でも、新製後の義歯を使いこなすためには患者側のトレーニングが必要になることを説明しても、なかなか理解が得られない。「義足を新しく作ったからといって、すぐには全力で走れない」と説明することもある。
後半では、義歯装着者の口腔ケアと義歯清掃についての解説があった。
鉤歯はプラークがたまりやすく、義歯装着者の要注意部位である。鉤歯は丁寧に磨かなければいけないという意識付けのためにも、ワンタフトブラシの使用をすすめることもあるようで、素晴らしいOHIだと感じた。
『外来・ホームにおける義歯ケアに関するTips』松丸悠一先生
松丸先生パートでは、粘膜病変、機械的清掃、義歯洗浄剤、義歯安定剤の4テーマについて解説があった。

セミナー後半は松丸先生パート
① 粘膜病変
義歯と関連した粘膜病変には、義歯性潰瘍、義歯性線維腫、義歯性口内炎がある。
義歯性口内炎の特徴的な所見は、義歯床に一致した粘膜の発赤を認めることだ。その場合の対応として、以下の四点が挙げられた。
・義歯装着時間と清掃状態確認
・義歯洗浄の励行
・劣化した粘膜調整材、軟性裏層材の除去
・抗真菌薬の使用
② 機械的清掃
義歯清掃では、義歯に付着した付着物を除去し、微生物を不活性化する。
義歯清掃は、義歯用ブラシや超音波洗浄器を使用した機械的清掃と、義歯洗浄剤を用いた化学的清掃に分けられる。機械的清掃と化学的清掃を併用することが重要だと松丸先生は語った。

二つの清掃法を併用することで細菌数・真菌数が減少する
③ 義歯洗浄
義歯の表面にはデンチャープラークや食物残渣、色素、歯石様沈着物などが付着する。
デンチャープラークや食物残渣は、ホームケアでも十分に対応が可能だ。一方で、色素や歯石様沈着物はホームケアでは除去できないことも多く、プロフェッショナルケアが必要になる。
プロフェッショナルケア用の義歯洗浄剤の使い分けとして、着色には次亜塩素酸系の洗浄剤、歯石様沈着物の除去には酸系の洗浄剤が効果的である。
次亜塩素酸系は強力な洗浄効果を有するが、義歯材料への悪影響には注意が必要だ。
④ 義歯安定剤
義歯安定剤は、義歯粘着剤とホームリライナーに分けられる。さらに義歯粘着剤は剤形の違いから、パウダータイプ、クリームタイプ、シートタイプに分類される。

義歯安定剤の種類と分類
ホームリライナーの使用は顎堤吸収のリスクを生じる可能性があり、現在では使用は推奨されないことが多い。
クリームタイプの義歯安定剤は主要な義歯安定剤であるが、適切な使用方法を守る必要がある。セミナーでは以下の手順が紹介された。
・義歯を水洗して、水分を拭き取る
・小豆程度の量を2〜3ヶ所に塗布する
・口の中を水ですすぎ、義歯を装着する
・1分程度噛み合わせて待つ
・義歯を取り外し、口腔内をガーゼなどで拭う
・義歯を流水下、義歯用ブラシで取り除く
歯装着後に1分ほど待機することを知らない場合も多いので、専門家としてしっかりと伝えておきたい。
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ここからは、義歯ケアに関する補足事項として、義歯用品の取り扱いについて、筆者が解説する。
歯科医療従事者が押さえておきたい義歯用品とは?
義歯用品の使用方法について、患者から質問されることもあるだろう。
本項ではセミナーでも取り上げられた義歯用品から、知名度が高い二製品について、その特徴と使い方を紹介する。
義歯安定剤は「新ポリグリップ 極細ノズル無添加」、義歯洗浄剤は「部分入れ歯用ポリデント」をピックアップした。

左が「新ポリグリップ 極細ノズル無添加 70g」、右が「部分入れ歯用ポリデント 108錠」
どちらの製品も、筆者が実際に患者に紹介したことがある製品である。ほとんどのドラッグストアで取り扱いがあり、容易に入手できる点がありがたい。
新ポリグリップ 極細ノズル無添加のトリセツ
本製品は、種々あるポリグリップの中でも、安定剤の初心者向けにおすすめできるエントリー製品。その特徴は二つ。
一つ目は、極細ノズルが搭載されている点だ。
極細ノズルとは、読んで字のごとく、従来のポリグリップに比べ先端径が細くなったノズルのこと。実際に、従来品と極細ノズルを比べてみると、ノズルから出るポリグリップの量が大きく異なることがわかる。

ノズルから出る量には大きな差がある
クリームタイプの義歯安定剤の使用量は、義歯の形状や大きさにより異なる。
従来品の通常ノズルでも、小豆大に安定剤を数ヶ所塗布することは可能だが、極細ノズルでは使用量をよりコントロールしやすい。総義歯はもとより、小さな部分床義歯にも塗りやすいと好評だ。
特徴の二つ目は、香料・着色料・防腐剤が無添加であるという点。日常的に口腔内に使用する製品だからこそ、含有成分には注意したい。
ポリグリップシリーズにはミントやメンソール風味の製品も存在するが、本製品は香料も使用していない。筆者は味見をしたことがあるが、ほぼ無味である。食事の味に影響が少ない点も、義歯患者にとって大きな利点だと考えられる。
同じく香料無添加の製品に「新ポリグリップ無添加」があるが、こちらは通常ノズルの製品。同じ成分で極細ノズルを搭載した製品が「新ポリグリップ 極細ノズル無添加」である。
初めて義歯安定剤を使用する際は、まずは少量から塗布してみるように指導すると安心だ。

「新ポリグリップ 極細ノズル無添加」の添付文書では、線状に義歯安定剤を塗布するように記載されている。
部分入れ歯用ポリデントのトリセツ
ホームケア用義歯洗浄剤の代名詞ともいえるポリデントであるが、その中でも「部分入れ歯用ポリデント」は防錆剤が配合された部分床義歯用の義歯洗浄剤である。
部分入れ歯用と記載されているが、メタルフレームを含む全部床義歯を浸漬する場合も、本製品だと安心だ。
金属に対応した義歯洗浄剤は、金属パーツの黒変を防ぐ効果がある。一度黒変してしまった金属は、黒変部分を機械的に除去しなければならず、金属光沢の回復は困難だ。

部分入れ歯用ポリデントは1錠に対し、150mlのぬるま湯(40℃)で使用する
ポリデントは学術的な研究の際に、義歯洗浄剤のサンプルとして使用されることも多く、信頼性が高い点もポイントだ。
つまり、金属床義歯でもレジン床義歯でも、全部床義歯でも部分床義歯でも「部分入れ歯用ポリデント」を使用しておけば問題ない。
実際に筆者が、患者に説明しているポリデントの使用方法を以下にまとめた。
① 義歯用ブラシでこすり洗い
② 部分入れ歯用ポリデントを溶かした40℃のぬるま湯(150ml)に、5分〜一晩浸漬
③ 義歯用ブラシで再度こすり洗い
④ 流水で水洗

義歯洗浄剤を使用したとしても、義歯ブラシによるこすり洗いは必要。
機械的洗浄と化学的洗浄の併用と、「機械的清掃→化学的清掃→機械的清掃」の順番を守ることが義歯のケアにおいて大切である。




