・帝国データバンクの発表では、歯科医院の倒産や廃業が過去最多ペースで進んでいる? ・将来は深刻な事態になると予測されることから、10年、20年先をにらんだ長期的な対策を考えておく必要性が! |
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M&D医業経営研究所代表の木村泰久です。
医療専門の経営コンサルタントの視点から、先生方の歯科医院経営に役立つ情報をお届けしていきます。
あけましておめでとうございます。今年もご参考にしていただけるコラムを提供させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
はじめに
帝国データバンクの2024年11月6日付けプレス発表によれば、歯科医院の淘汰が過去最多ペースで進んでいるといいます1)。
以下、同社のプレス発表から引用します。
2024年に発生した歯科医院の倒産(負債1,000万円以上、法的整理)が前年比倍増の25件、休廃業・解散(廃業)が101件発生し、10月までに計126件が市場から退出した。23年通年の件数(104件)を超えて年間最多を更新するなど、前年比1.8倍の記録的なハイペースで推移している。
図表-1 グラフは帝国データバンク2024/11/6プレス発表から転載
この要因について、同プレス発表では次のように解説しています。
経営者の平均年齢が60歳を超えるなど高齢化が進む歯科業界では、近年は特に歯科医の高齢化が要因とみられる廃業が目立っている。2024年に「休廃業・解散」となった歯科医院の代表者年齢は69.3歳と70歳に迫るほか、最高齢は90歳超と集計可能な2016年以降で最高を更新した。
また、歯科衛生士等の人手不足や後継者難に加え、「コンビニよりも多い」と指摘される供給過剰感や、むし歯治療で用いる銀などの合金をはじめとした物価高騰に伴う材料費等の値上げが重なり、収益環境も厳しい状況が続いている。こうした中、マイナ保険証に対応した関連設備の導入など電子化も求められ、新たな設備投資が必要となったことも、高齢の歯科医師が運営する歯科医院で廃業が増加した要因の一つとみられる。
大変な事態が進行しているようなプレス発表です。今回は、歯科医院の倒産や廃業が過去最多となった主な要因を挙げてみましょう。
1)「歯科医院」の倒産・休廃業解散動向(2024年1-10月)(帝国データバンク)
歯科医院の倒産や廃業が過去最多となった主な要因を考える
帝国データバンクでは倒産と廃業を同列に論じていますが、倒産と休廃業・解散の要因は異なると考えられるので、分けて考察しましょう。
(1)倒産が増えた要因
① 売上の減少
帝国データバンクも指摘しているように、地域によっては過当競争になっています。若い歯科医師の開業志向が強いため、市街地の駅前などでは競合が激化している地域があります。家賃の高い駅前で開業して高額の設備投資をしたものの、立地が悪く、集患できずに自己破産に追い込まれるケースもあるようです。積極的に分院を開設しているチェーン展開型の多店舗展開型法人が近隣に開業し、既存の歯科医院が患者を奪われるケースもでているようです。
また、都市部ではう蝕の減少によって、従来の歯科治療中心型の歯科医院では患者が減少しています。特に高齢の歯科医師が経営する歯科医院には治療中心型の医院が多く、影響を強く受けていると考えられます。
② 過剰投資
倒産や自己破産の要因には過剰投資が多くを占めます。歯科は絶えず設備投資が必要な診療科だからです。例えばCTは500~3,000万円、マイクロスコープも200~900万円かかります。歯科用ユニットも250~600万円、滅菌消毒機器もウォッシャーディスインフェクターが300万円以上、クラスBオートクレーブも70万円かかります。光学印象機器も200万円以上かかります。
保険診療報酬改訂で、根管充填にCTやマイクロスコープの算定が入り、CAD/CAMインレーで光学印象が算定されたため、これらの機器をそろえる歯科医院が増えています。しかし、患者数や患者の年齢層、診療内容によってはせっかく投資しても回収が困難になるケースがあります。
また、開業後20年程度が経過した医院は、建物や設備のリニューアルを計画しますが、工事が始まるといろいろ触りたくなって、結果的に想定予算の2倍以上の資金をかけてしまうケースがありがちです。さらに、都心では自費中心で経営しようと高額の家賃の物件に入り、豪華な内装や設備にするケースも多いようです。しかし、物件の集患可能性を見極めずに甘い判断で開業した結果、患者数や売上の見通しが狂い、資金ショートに追い込まれるケースもでてきます。
③ 人件費の高騰
人件費の高騰が経営を圧迫しています。歯科医療法人の人件費比率は、医療経済実態調査では48%ですが、大型医療法人では50%を超える医院も多く、人件費比率が55%を超えると赤字に転落するケースが増えてきます。
その中で、臨床研修終了後1年目の歯科医師の賃金が40~50万円、3年目で年収800万円という募集条件も多くなっています。歯科衛生士の人件費も高騰しており、首都圏では中途採用を30万円で募集しても応募が期待できない状況です。また、転職で給与が上がると考えて勤務医や歯科衛生士が転職してしまい売上が減少したケースや、転職を防止するために賃金を上げざるを得なくなって赤字に転落するケースもあるようです。
④ 経費の増大
「みちのく政宗デンタルクリニック」の医療法人幸歯ノ会が2022年(令和4年)9月30日、神戸地裁へ破産申請しました。また、「東京プラス歯科」の医療法人社団友伸會が2023年9月に東京地裁へ民事再生法の適用を申請しました。多店舗展開型の歯科医院は、高額の家賃負担と分院長の人件費や歯科衛生士の賃金、広域的に集患するための広告宣伝費、技工料などに追われて収益性が低くなりがちです。
特に、アライナー矯正を中心とする医院や、広域的にインプラント患者を集めようとする多店舗型歯科医院では、年間3,000万円~1億円以上の広告費をかけているケースが多いようです。銀行借り入れが大きい場合、患者数や自費売上が目標に達しなければ借入返済負担が経営を圧迫して赤字に転落し、倒産リスクが高くなります。
⑤ 新型コロナウイルスの影響
多くの歯科医院で、新型コロナで患者数が大幅に減少し、経営を直撃しました。十分な集患ができなくなった歯科医院では、コロナのゼロゼロ融資を運転資金として費消してしまい、返済のメドがたたなくなったケースもあるようです。コロナ後もなんとか経営を継続してきたが、ここにきて倒産したり破産したりする歯科医院がでています。
(2)休廃業・解散が増えた要因
① 歯科医師の高齢化
図表-2は、前掲の帝国データバンクが公表したグラフです。休廃業解散時点の歯科医院経営者の年齢構成の推移を表しています。半数が70代以上となっています。
この要因の一つは、高齢の歯科医師の経営する歯科医院では、医院の老朽化と歯科医師の高齢化に伴って患者数が減少し、収益が悪化していくからです。若い患者は高齢の歯科医師を敬遠し、来院している患者は歯科医師と一緒に高齢化していくため、次第に患者が少なくなっていきます。
また、前述のように高齢の歯科医師の経営する歯科医院は治療中心型の経営が多く、う蝕の減少とともに患者数が減少していきます。この結果、事業の継続をあきらめて閉院する歯科医院が増えているのです。
図表-2 グラフは帝国データバンク2024/11/6プレス発表から転載
② 後継者の不在
次の図表-3は、2020年と2018年の歯科医師数の増減を5倍して、2030年の年齢階層別歯科医師数を予測したものです。2030年は70歳以上の歯科医師が1万8,000人に達します。75歳でリタイヤを考えている歯科医が多いとみられる中で、後継者がいない歯科医院の廃業が続いていくと考えられます。特に、ユニット3台以下で医院が老朽化した高齢歯科医師の経営する個人立歯科医院では事業承継が難しく、廃業が増えていくと考えられます。
図表-3 歯科医師数年齢階層別推移予想(株式会社M&D医業経営研究所作成)
③ 保険治療依存の経営体質
日本の歯科診療は主に保険診療が中心であり、特に歯科医師の処置に対する保険点数の低さが収益性を圧迫しています。例えば、図表-4は2014年と2024年の診療報酬の一部を比較したものです。う蝕処置や咬合調整など同じ点数のものがみられます。根管治療などわずかに上がっているものもありますが、10年間の変化としてみるといかがでしょうか。
採算性の高い自費治療を増やすためには、CTやマイクロスコープの整備などの設備投資や高度な医療技術習得のための研修の受講、さらに患者へのカウンセリングのスキルや歯科カウンセラーの養成が必要になります。
しかし、対応する余力がないため保険治療に依存する経営になりがちです。また、歯科衛生士の採用が厳しいなかで、定期予防管理型の歯科医院経営に転換できず、予防や管理の高点数の恩恵を得ることができません。この結果、いつまでも低採算から抜け出せなくなり、廃業に追い込まれていくのではいかと考えられます。
図表-4 10年前との保険点数比較(株式会社M&D医業経営研究所作成)
④ 経営スキルの不足
医師としての技術は高くても、経営スキルが不足しているケースが多いようです。歯科医院は厳しい競争環境の中で患者を獲得していかなければなりません。そのためには何か一つでも他の歯科医院を差別化できる魅力を作り込んで行く必要があります。
しかし、高齢の歯科医師は労なく患者が押し寄せてきた時代の記憶もあるためか、う蝕の減少による患者減少と売上の減少の中でも、ゆでガエルのようになってしまい患者獲得や採算性向上の努力を軽視しがちです。患者獲得のためのマーケティングやスタッフマネジメント、自費増大対策や定期予防管理型歯科医院への転換など、経営管理を適切に行うことができず廃業に追い込まれていく場合が多いと考えられます。
⑤ 医療DX化の影響
令和6年10月までに義務付けられているオンライン請求やマイナ保険による資格認証に対応できず、廃業を決めた歯科医院も多いようです。また、レセコンの更新や電子機器などへの新たな設備投資に耐えられず、廃業を決めた医院も多いようです。
まとめ~今は影響は軽微だが、将来は深刻な事態になる〜
歯科医院の倒産・休廃業解散が増えていますが、現状ではまだ大きな影響はないと考えられます。
厚生労働省の医療施設動態調査では、令和6年9月の歯科診療所の施設数は66,384件でした。倒産と休廃業が通年で150件を超えるとしても、全体からみればわずか0.2%に過ぎません。倒産件数が通年で30件になるとしても、全体の0.05%であり誤差のようなものだからです。
しかし、今後は減少のスピードが上がると考えられます。図表-5は、医療経済実態調査から作成した歯科診療所数の推移グラフです。放物線を描いて減少していることがわかります。ピークの2017年の68,864件から2024年9月の66,390件までの8年間の減少は2,474件でしたが、今後ますます減少が加速していくとみられるのです。
図表-5 歯科診療所数推移グラフ(医療経済実態調査から株式会社M&D医業経営研究所作成)
今後は歯科医院も人口も減少し続け、山間部や離島を中心に無歯科医地域や歯科医療の受診難地域が増えていくことが予想されます。今から10年先、20年先をにらんだ長期的な対策を考えておく必要があると思います。
この記事は、経営>集患・SEO・HP