・令和6年12月2日から、健康保険証の新規発行が終了することで、窓口が混乱することが予想される。その対策とは? ・マイナ保険証への移行によって発生するトラブルと対策、歯科医院で考えられる活用推進対策は? |
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はじめに
M&D医業経営研究所代表の木村泰久です。
医療専門の経営コンサルタントの視点から、先生方の歯科医院経営に役立つ情報をお届けしていきます。
マイナンバーカードを「マイナ保険証」として医療機関等を受診するシステムが開始されており、令和6年12月2日から、健康保険証の新規発行が終了します。
ですが、マイナ保険証の使用率はそれほど増えていないため経過措置が設けられました。この結果、現在の健康保険証は有効期間内であれば令和7年12月1日まで使用できます。
さらに、マイナンバーカードをまだ発行していない方やマイナ保険証の登録をしていない方のために、当面の間、健康保険証に代えて資格確認書が発行され、これを提示することで医療機関等を受診することができるようになります。
しかし、現場ではいろいろな不安がうずまいているようです。これから歯科医院で起きそうな問題と、歯科医院での対策について考えてみたいと思います。
マイナ保険証の利用件数の現状
図表―1は、厚生労働省保険局が公表した、令和5年1月から令和6年9月までのマイナ保険証の利用件数のグラフです。利用件数は2,715万件、利用率は13.87%となっています1)。
図表―1 マイナ保険証の利用件数と利用率(画像は出典1より引用)
また、図表―2は、保険証の利用数の内訳です。合計1億9,569万件のうち、2,715万件で、13.87%となっています。
このうち歯科診療所は、1,378万件のうち267万件で19.38%、医科診療所は、8,055万件のうち、927万件、11.51%で、歯科の方が若干多くなっています。
図表―2 令和6年9月分マイナンバーカードと保険証利用実績の内訳(画像は出典1より引用)
歯科医院の実態は?
図表―3は、弊社のクライアント歯科医院に対して令和6年11月11日から15日までに行ったマイナ保険証の利用率についてのアンケート調査の結果です。母数は少ないのですが、大体の傾向はわかると思います。
利用率50%以上になっている歯科医院は全体の14.3%に過ぎず、10%台以下が42.8%を占めています。地域別では、東京都心では60%程度にまで増えていましたが、首都圏でも高いところで30%、地方では10%以下という状況でした。
都心や横浜市内の歯科医院でも、医院によって利用率に大きな差がありました。これは、医院からの患者さんへの声掛けの有無によって大きな差が出ているということのようです。
図表―3 マイナ保険証の利用率(株式会社M&D医業経営研究所作成)
今年12月2日からのマイナ保険証への移行のしくみ
(1)マイナ保険証がない人には資格確認書が交付される
12月2日(月)から、図表―4のようなスケジュールでマイナ保険証の運用が開始され、この日以降は健康保険証の新製がなくなります。
このため、マイナンバーカードを持っていない人や、マイナンバーカードを持っていてもマイナ保険証として登録していない人などに対して、2025年7月末までの暫定的な運用として、現行の健康保険証が失効する前に、現在の保険者(国民健康保険は自治体)から健康保険証の有効期限内に資格確認書が無償で交付されます。特に申請手続きは不要です。
資格確認書が交付される方は、次の通りです。
① マイナンバーカードを取得していない方
② まだマイナンバーカードを健康保険証として利用する登録をしていない方
③ マイナ保険証の利用登録解除を申請した方
④ マイナンバーカードの電子証明書の有効期限が切れた方
⑤ 後期高齢者の方(後期高齢者医療制度の被保険者)
図表―4 マイナ保険証への移行と資格確認書の交付スケジュール(画像は出典2より引用)
(2)高齢などでマイナ保険証の顔認証やパスワードによる認証が困難な方は、申請によって資格確認書が交付される
高齢者や、障害がありマイナ保険証の利用登録をしても顔認証やパスワードによる認証が困難な方や、マイナンバーカードを紛失して更新中の方、親族等の法定代理人や介助者などは、申請することで資格確認書が発行されます。つまり、2025年7月末までは、現行の健康保険証と変わらない使い方ができるわけです。
(3)資格確認書は、現行の健康保険証のようなカードになる
健康保険資格確認書は図表―5のようなカードになります。材質はプラスチックか紙で、有効期間は5年以内で保険者が設定します。
図表―5 健康保険資格確認書のデザイン(画像は出典3より引用)
(4)「資格情報のお知らせ及び加入者情報」(以下、「資格確認のお知らせ」と略)が届けられる
マイナ保険証を使用する方には、「資格確認のお知らせ」が届けられます。マイナ保険証と一緒に携帯していただき、マイナ保険証が使えない医療機関を受診する際や、読み取り装置がうまく働かないときにこれを提示することで、保険で診療を受けられます。
「資格確認のお知らせ」は、加入時期に応じて2回に分けて発送されています。
1回目:令和6年9月9日(月曜日)~令和6年9月30日(月曜日)※令和6年6月7日(金曜日)時点の加入者
2回目:令和7年1月22日(水曜日)~令和7年2月3日(月曜日)(予定)※令和6年6月10日(月曜日)以降に加入した11月29日(金曜日)時点の加入者
3)健康保険証とマイナンバーカードの一体化(マイナ保険証)に関する制度説明資料(全国健康保険協会)
マイナ保険証への移行によって発生するトラブルと対策
マイナ保険証への移行に際しての弊社のクライアント医院のアンケートでは、次のような問題点が指摘されました。厚生労働省の資料をもとに、現時点で考えられる対策もまとめましたので、合わせて記載しておきます。
(1) システム面での問題
マイナ保険証が機器のエラーなどで読み取れないときに、健康保険証を提示してもらっているが、これが使えなくなったときにどうするか。
→患者さんが、「資格確認のお知らせ」をお持ちの場合は提示していただきます。あるいは、マイナカードのマイナポータルから、保険証情報を確認していただき、それをもとに入力します。
また、「被保険者資格申立書」を書いていただき、受診していただく方法があります。この申立書をご記載いただくことで、3割負担(未就学児は2割負担、70歳以上等の方は1割~)により自己負担額を計算します。 保険者番号等の情報(保険証のコピーや写真を含む)がわかり次第、ご連絡いただく必要があります。
多くの人が暗証番号を記憶していないので、顔認証に失敗して、保険証を持参していない場合が困る。特に、マイナ保健証の方は資格確認書が発行されないので、混乱が日常的におきる可能性がある。
→何度か顔認証の位置や角度を変えたりして、やり直していただく必要があります。それでも無理な場合は、患者さんが、「資格確認のお知らせ」をお持ちの場合は提示していただきます。あるいはマイナカードのマイナポータルから、保険証情報を確認していただき、それをもとに入力する方法があります。
さらに、「被保険者資格申立書」を書いていただき、受診していただく方法があります。
図表―6 被保険者資格申立書サンプル
マイナ保険証には公費が紐づけされていないため、別途公費の証明を提示していただく必要があるが、患者さんがマイナ保険証に入っていると思って忘れてきたり、受付窓口で医院側が忘れてしまったりする可能性がある。(公費とは:乳幼児医療、ひとり親家庭医療費助成、障害者医療費助成、小中学生医療費助成、特定医療費(指定難病)受給者証などです)。
→公費はマイナ保険証に紐づけされないことを、みやすい場所にポスター掲示しておくとともに、対象になる患者さんに繰り返しお伝えして周知しておく必要があります。
生活保護の人のマイナカードの対応や、変更点、それに伴う受付業務の変更などがわからない。
→特にこれまでと変更される点はありません。生活保護の人も医療機関(病院や薬局)の窓口でマイナンバーカードを提示することで、健康保険証のように使うことができます。
図表ー7に示しましたが、生活保護の人の流れは、以下の通りです4)。
・生活保護の方が福祉事務所に申請
・福祉事務所がオンライン資格認証システムに資格情報を登録
・本人が医療機関を受診する
・医療機関は保険者にレセプトを送付し
・保険者から福祉事務所にレセプトを送付する
当面の間、オンライン資格確認による医療券・調剤券の電子発行と平行して、従来通りの紙の医療券の発行を継続する自治体もあるようです。
図表ー7 生活保護の人の流れ(画像は出典4より引用)
マイナカードでお薬の服用歴・通院の既往歴を見てお薬管理ができるということだが、院内処方の場合はどう反映されるのか、また反映させる方法がわからない。
→院内処方の場合も特別な処理は不要です。マイナ保険証を通じて診療と処方情報がデジタル管理されるため、その情報はデータベースに記録され、他の医療機関でも参照可能になります。患者さんが他の医療機関を受診する際にも薬の情報が活用されます。
マイナンバーカードを発行しておらず、資格確認書ももっていない患者さんが急患で来院した場合に、どうすれば良いか。
→現在の保険証を忘れた患者さんと同じ扱いになります。10割負担をいただいて、同月以内に再来していただき、精算ということになります。
窓口での保険証登録の方法がわからないので不安です。
→図表ー8のような方法で簡単にできます。受付スタッフ全員に共有しておきましょう5)。
図表ー8 マイナンバーカードの保険証登録の方法(画像は出典5より引用)
(2)機器に関する問題
機器の不具合やシステムの不具合が時々発生し、情報が反映されないことが起きているので不安になる。機械の不具合でエラーになり、復旧させるのに電話ではむずかしく、業者に来てもらいましたが、約4日間は機械が使えず、入力も確認もできなくなり大変困りました。健康保険証を持ってきていただいて登録しましたが、今後はどうすれば良いでしょうか。
→患者さんが、「資格確認のお知らせ」をお持ちの場合は提示していただきます。あるいは「被保険者資格申立書」を書いていただき、受診していただく方法があります。
受付カウンターの会計横に機械を置いているが、診療室入口や会計スペースが狭いので、今後不慣れな患者さんが増えて、会計と来院が重なった時に混雑すると思う。受付が狭く機械の移動もできないので不安になる。
→患者さんにお並びいただくスペースの検討や、会計と来院受付の窓口を変えて、できるだけお待たせしない方法を工夫する必要があります。
高齢者が暗証番号を覚えていないので、顔認証ができるように機械の位置を調整する必要がある。
→背が低い方のために受付カウンターの工事をして低くする、低めの台を設置してその上に置くなどの対応が考えられます。
マイナカードの機械自体に電源がないので、不具合が出たときなどにコンセントを抜き差しするしかないのが不便だし、不安。
→機器の不具合の際に迅速に復旧できる対応を、受付スタッフ全員に共有しておく必要があります。
5)マイナ保険証2024年12月2日マイナ保険証を基本とする仕組みへ。(政府広報オンライン)
歯科医院で考えられる活用推進対策
マイナ保険証をスムーズに取り扱っていくために、活用の促進対策とトラブルの防止対策を講じておく必要があります。これから歯科医院で実施できそうな項目を列挙しておきたいと思います。
(1) 活用促進対策
マイナ保険証を普及させるため、次のような対策が考えられます。
① マイナ保険証利用のメリットの説明
マイナ保険証を利用することで、病歴や投薬歴を把握することができ、医療安全や適正な医療を受診することに繋がります。受付や待合室に、マイナ保険証を利用することのメリットを説明するポスターを掲示し、初診や再初診の患者さんに必ずご説明するようにしましょう。患者さんの理解が深まり、利用促進に繋がると考えられます。
② マイナ保険証利用者へのインセンティブ提供
スタッフの説明によって医院でマイナ保険証を登録してくれた初診や再初診の患者さんに対し、来年12月2日までの移行措置期間の間、健康グッズや歯ブラシなどをプレゼントする、あるいは歯科衛生用品の割引券を提供するなどのインセンティブを工夫してはいかがでしょうか。マイナ保険証への移行手続きをする動機付けになりますし、スタッフからもおすすめしやすくなると考えられます。
③ マイナ保険証と健康管理の関連性をポスター掲示
マイナ保険証を利用することで、他の医療機関での治療歴や服薬情報の共有が可能になるため、例えば、ご高齢の患者さんに、糖尿病や高血圧などの持病がある方の歯科治療において、「血圧測定や酸素飽和度を測定しながらの治療が受けられること」や「糖尿病の患者さんには定期的な歯周病治療の中で重点的に診てもらえること」など、適切な治療が行えることをアピールすることで、マイナ保険証への移行をご説明すればある程度の動機づけができると思います。
④ スタッフへの院内研修の実施
スタッフに、マイナ保険証の活用や登録方法やトラブル対策、患者さんのサポート方法などについての院内研修を実施し共有しておきます。特に高齢の患者さんに対してのスマートフォンの操作や、保険証登録の方法、顔認証に失敗し暗証も覚えていない場合の、マイナポータルからの健康保険情報の読み取り方法などを共有します。スタッフが実際の操作を補助することで安心して使用していただけるようになると考えられます。
(2)トラブルの防止対策
次のような対策で、トラブルを防止できるようにしておきましょう。
① 受付カウンターにICチップの拭き取りができるように設置しておく
受付カウンターにティッシュなどを用意しておき、読み取り装置にセットする前に、カードのICチップ部分を軽く拭き取っていただくようにしましょう。
② 読み取り機器の点検と定期メンテナンス
読み取り機器の定期的なメンテナンスとソフトウェアの更新が必要です。読み取り機やドライバーのバージョンが古いと、エラーが発生しやすくなります。
③ カード挿入方法の確認
読み取りトラブルは、ICカードの挿入方向や置き方が正しくないことが原因の場合が多いようです。患者さんが正しく挿入しているか見える位置に機械を設置して、受付スタッフが確認できるようにしましょう。
④ 職員の教育と利用者への周知
前述のように、読み取りエラーなどのトラブルが発生した場合の対応手順を職員に周知しておく必要があります。患者さんにも、事前に読み取り機へのセットの際の注意点を説明しておきましょう。
まとめ
令和6年12月2日以降は、新しい健康保険証は作られなくなります。しかし、前掲のようにマイナ保険証の普及率は高くありません。
結果的に、多くの患者さんが積み残しになったままの移行ということになりました。しかし、マイナ保険証を持たない方には資格確認書が発行されるため、大きなトラブルになることはないと考えられます。
逆に、マイナ保険証を使用される患者さんが問題になりそうです。資格確認書をもっていないので、機器の読み取りミスが起きた場合に困る事態が予想されるからです。その場合は、患者さんにお願いして、患者さんのマイナポータルから健康保険証情報を呼び出していただいて入力するか、あるいは「被保険者資格申立書」を書いていただくということになります。いずれにしてもそれなりの時間を要するので受付窓口が混雑することになるでしょう。
資格確認書は、これまでの健康保険証と同じような使い方になるので、コピーをとって誤入力などに備える歯科医院が多くなるでしょう。
しかし、マイナンバーカードは、両面コピーすると犯罪になるので注意が必要です。「預からない、コピーを取らない、すぐに返す」という三原則をスタッフに徹底する必要があります。もっとも、マイナ保険証は、資格確認がその場でできるのでコピーを取る必要性がなくなります。
歯科医院のメリット
マイナ保険証を利用することで、過去の受診データや投薬記録をみることができます。これは患者さんにとって、医療安全の面でも大きなメリットになると考えられます。
歯科医院にとっては、歯科診療報酬で、医療DX加算を算定することができることや、受診歴や投薬履歴から、糖尿病や高血圧などの成人病に罹患している患者さんがわかるので、「歯科治療時医療管理料45点を算定できる」「糖尿病の患者さんには、SPT(歯周病安定期治療)において、糖尿病ハイリスク加算80点を算定できる」ことなど、多くのメリットがあります。
その中で考えておく必要があるのは、来年7月には、国民保険の患者さんでマイナ保険証に登録されていない患者さんに一斉に資格確認書が送られることです。
患者さんからいろいろ質問され、窓口が混乱することが予想されます。このため今から、「資格確認書が発行されるのは2025年7月末までの特例」ということをご説明して、できるだけ早くマイナ保険証に切り替えていただくようにご案内していくことが必要です。
その際、前掲の歯科医院で考えられる活用推進対策を参考にしていただければ幸いです。
この記事は、経営>受付・患者対応